dorifamuの日記

〜番外編ばかりの毎日・感謝の気持ちを忘れないように〜 

私は名義だった・・隔離された時間

第十三章 隔離された時間

 

拘置所からの手紙は、週に一度。

 

封筒は薄い。

だが中身は重い。

 

等級が上がれば、

発信できる回数が増えると聞いた。

 


彼は、

規律を守る人だった。

 


外にいる私より、

内側の彼のほうが安定しているように思えた。

 

手紙には、心配の言葉が並ぶ。

 

「体は大丈夫か」

「無理をするな」

「弁護士の言うことをよく聞いて」

 

家族宛ての文章と、

私宛ての文章は違っていた。

 

だがどちらも、

計算された温度だった。

 


今思えば、

彼は予測していたのだと思う。

 

これから何が起きるかを。

 

そして自分が

どこにいれば安全かを。

 

前の事件から、

彼は学んでいた。

 

証拠は残さない。

金の流れは分散する。

責任の線は曖昧にする。

 

そして何より、

 

自分は中心にいないように見せる。

 

拘置所という場所は、

ある意味で安全だった。

 

動けない人間は、

動かした人間には見えない。

 

だが外では、

別の物語が動いていた。

 

入籍。

 

私には告げられなかった。

 

何人もの女性の中の一人。

 

娘とも親しい関係だった人物。

 

後から知る。

 

その女性は、

まだ前夫との婚姻関係中に

長谷川と出会っていた。

 

アプリで。

 

彼女には息子が二人いた。

 

一人は大学生で、

今回の事業にも関わっていた。

 

もう一人の存在は、

さらに後になって知った。

 

長谷川は、

彼女の両親にも会っていた。

 

行動は早い。

 

常に先手を打つ。

 

収監後、

私はパソコンの履歴から彼女の存在を知る。

 

大学生の息子を通じて連絡を取った。

 

彼女は言った。

 

「私も騙された」

 

伊豆の事業が揺らいでいた頃、

彼女の親に金を借りてくれないかと

頼まれたことがあるという。

 

二千万円。

 

離婚慰謝料があるから貸せると、

彼女は言ったらしい。

 

だがその後の生活は、

長谷川が支えていた。

 

名古屋・千種の高級マンション。

 

野球選手も住むという分譲賃貸。

 

高級家具。

 

車。

 

外車。

 

違う車で現れた日は、

「娘の彼氏の車だ」と嘘をついた。

 

すべて、

後から拘置所の記録ノートに書かれていた。

 

 

収監直前、

証券会社の口座に百万円。

 

彼女の息子に、

日経225のやり方を教えた。

 

小遣い稼ぎにしろ、と。

 

私は彼女に言った。

 

「口座が動いているのは危険です」

 

彼女は答えた。

 

「今、少しマイナスだから」

 

損益の問題ではない。

 

だが彼女は、

まだ彼を信じていた。

 

家には刑務所の本が並んでいる、と言った。

 

「これで彼を支える」

 

その声は、

かつての私と同じだった。

 

記録ノートは、

時間をかけて私の元に届いた。

 

裁判に必要なことが書いてあるから、と。

 

体のケアをしてくれている弁護士を通じて。

 

ページをめくる。

 

そこには、

生活の詳細。

 

金の流れ。

 

そして、

 

入籍の事情。

 

 

私は母親から聞かされた。

 

長谷川が入籍したことを。

 

その頃、

彼と母親の関係は断絶していた。

 

母親は、

私に伝えることで

彼に痛みを与えたかったのかもしれない。

 

だが痛んだのは、私だった。

 

入籍は、

娘の妊娠が理由だった。

 

娘は父の前科を

交際相手に伝えていなかった。

 

海外にいることになっていた。

 

娘は私を嫌っていた。

 

収監後、LINEで言葉を交わした。

 

今振り返れば、

妊娠も計算の一部だったのかもしれない。

 

祖母と二人きりの生活。

 

八年。

 

未来。

 

逃げ道。

 

これはあくまで、

私の推測だ。

 

だが結果として、

娘は籍を入れた。

 

相手の家族には一人で挨拶に行った。

 

記録ノートには、

「本意ではない」と書かれていた。

 

だがその言葉が

当時の私に届くことはなかった。

 

裏切り者。

 

その言葉が、

やっと心の中で形を持った。

 

私はずっと、

信じていた。

 

信じようとしていた。

 

だが拘置所という

隔離された空間の中で、

 

彼は新しい人生を選び、

 

私は崩れた過去を拾っていた。

 

ようやく、

目が覚めたのだと思う。

 

遅すぎたかもしれないが。

 

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