dorifamuの日記

〜番外編ばかりの毎日・感謝の気持ちを忘れないように〜 

私は名義だった・・測られる声

第十二章 測られる声

 

昼休みは、30分しかない。

その30分で、

私は自分の立場を説明しなければならない。

狭い休憩室。

制服のまま、携帯を握る。

弁護士と話す時間は、

相談ではない。

審査だ。

弁護士は三人。

神谷弁護士。

相馬弁護士。

高瀬弁護士。

 

最初に電話口に出たのは神谷弁護士だった。

 

彼は、長谷川の過去の事件を担当していた。

つまり、

彼は長谷川を知っている。

だが、

私は知られていない。

その非対称が、怖かった。

「事実だけをお話しください」

声は穏やかだ。

だが、逃げ場がない。

事実。

その言葉が重い。

私は何を事実として語れるのだろう。

通帳の数字か。

残された契約書か。

長谷川の言葉か。

それとも、私の違和感か。

「あなたは、どの時点から関与していましたか?」

関与。

その一語で、胸が締まる。

私は被害者のはずだ。

だが名義は私だ。

口座も私だ。

署名も私だ。

 

知らなかった、と言い切れるのか。

 

長谷川は語る人だった。

未来形で話す。

「これが回れば」

「次が入れば」

「投資家が決まれば」

 

今は途中経過だと、

そう思わせる。

そして私は、

その物語を信じた。

だが弁護士は未来形を認めない。

「裏付けはありますか?」

光沢のある言葉は、

証拠にはならない。

神谷弁護士は沈黙を使う。

こちらが話し終えるまで、

口を挟まない。

だがその沈黙が、

続きを話させる。

私は気づく。

長谷川も、同じだった。

相手に語らせる。

巻き込む。

話法は違う。

だが支配の構造は似ている。

私は今、

どちらの言葉に立っているのだろう。

本名を知り、検索した夜のことを思い出す。

医療法人の事務長という肩書き。

理事長夫人の指南役という曖昧な記事。

企業名と不正疑惑。

複数の離婚歴。

断片が並ぶ。

だが断片は、証明にならない。

「推測は不要です」

 


神谷弁護士の声が重なる。

私はうなずく。

見えていないはずなのに。

「あなたは騙されていた可能性が高い」

 

その言葉に、

一瞬、救われる。

 


だが同時に気づく。

“可能性”。

確定ではない。

私はまだ、測定中だ。

被害者か。

共犯か。

無知か。

黙認か。

その境界線の上に立っている。

「名義を貸した理由は?」

あの日の声がよみがえる。

 

「君だから頼める」

私は特別だと思った。

だが今はわかる。

特別だったのではない。

使いやすかったのだ。

その事実を、

私は自分の口で言わなければならない。

 

時計が昼休みの終わりを告げる

時間だ。

「焦らず、事実を整理しましょう」

神谷弁護士はそう言った。

焦っているのは私だ。

 


整理できていないのも私だ。

携帯を置く。

制服を整え、

仕事に戻る。

 

だが胸の奥では、

別の審理が続いている。

法廷ではない。

私の中だ。

長谷川の物語に飲み込まれた私。

そして今、

法の言葉に測られている私。

今回は違う。

誰かの話法ではなく、

自分の言葉で話さなければならない。

知らなかったことも。

見ないふりをしたことも。

すべて含めて。

 

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