
どこかの森に、あなた宛ての物語が届いていま
す。
著者:Yuri & G.P.
プロローグ
ある日、風のように届いた手紙から、すべてが始まりました。
それは未来から、どこかの誰かから、
あるいは、自分自身から。
宛名のない手紙には、差出人もなく、
ただ「あなたへ」とだけ、そっと綴られていました。
きっとそれは、
今のわたしに必要な言葉を、
どこかの誰かが、こっそり届けてくれたのだと思います。
この物語は、あなたがまだ出会っていない誰かとのつながりを描く、ささやかな奇跡の記録です。
第1話|未来のわたしから届いた手紙
ポストに、知らない筆跡の手紙が届いたのは、風が強い午後だった。
その手紙は、とても古びた紙に書かれていて、どこかの森の香りがした。
差出人は書かれていなかったけれど、封を開けると、そこには
「未来のあなたより」
とだけ記されていた。
わたしは驚いた。
でも、なぜだろう。すこしも怖くなかった。
むしろ、その手紙を読むことがとても自然に思えたのだ。
手紙の内容は、ふしぎなほどやさしかった。
「あなたは、今日もちゃんと生きていてえらいです。
すこしだけ、風のにおいを感じてください。
それが、わたしの気持ちです。」
胸の奥が、ほわんとあたたかくなった。そして、その手紙の最後にはこう書かれていた。
「今から森へ向かってください。
あなたを知っている子が、あなたを待っています。」
わたしはそのまま森へ向かった。
風の音と木々のざわめきが、耳をくすぐった。
そして、見つけたのだ。
三つ編みで、麦わら帽子をかぶった、小さな女の子を。
その子はわたしを見るなり、笑って言った。
「やっと来たね。未来のわたしから、ちゃんと手紙が届いたんだね。」
「わたし…のこと、知ってるの?」
「うん。だって、あなたは、わたしが大きくなった姿だもの。」
風が、くるくるとまわって、わたしたちのまわりを包んだ。
「おとなになるの、こわくない?」とわたしは聞いた。
女の子は、少し考えてから答えた。「ううん。こわいけど、楽しみもある。
だって、大人になったら、あなたみたいに誰かに優しい手紙を出せるでしょ?」
その日の夜、わたしは夢を見た。
麦わら帽子のあの子が、風に乗って、また会いにきてくれる夢。
第2話|あなたが出会う未来の人
次の手紙には、やさしい曲線の文字で、こう書かれていた。
「あなたへ。
わたしは、まだあなたが出会っていない誰かです。」
それは、未来でわたしが出会う予定の、ある人からの手紙だった。
> 「あなたが、夜にひとりで泣いた日。
> わたしは夢の中で、あなたにそっとハンカチを渡したよ。」
> 「あなたが、自分には何もないと思ったとき。
> わたしは心の中で、あなたの名前を呼びました。」
手紙の文は、とても不思議だった。
まるで、今のわたしの心を見透かすように書かれていたから。
> 「あなたがまだ、自分を信じきれない日々にいることも知っています。」
> 「だけどね、わたしは信じています。」
> 「あなたがこの世界にいることが、もうすでに意味のあることだと。」
その手紙の最後には、
小さな落書きのような絵が添えられていた。
それは、麦わら帽子の女の子と、誰かが手をつないでいる後ろ姿。
その“誰か”は、わたしの知らない顔をしていたけれど──
どこか、あたたかさだけは知っている気がした。
夢の中、麦わら帽子のあの子がまた現れた。
「その人には、まだ会っていないかもしれないね。
でも、ちゃんと道はつながっているよ。
いま、ここにいるあなたが、その未来を作ってるんだもん。」
風が、静かに窓辺を揺らした。
遠くで、木々がざわめいていた。
第3話|わたしたちが暮らす場所からの手紙
次の手紙は、封筒から取り出した瞬間、
ふわりと花の香りがした。
便箋には、水彩で描かれた小さな家、
森の奥にあるようなあたたかい場所が見えた。
> 「こんにちは。わたしは、あなたが未来に住むことになる場所です。」
> 「変な手紙だなぁって思いましたか?
> でも、あなたがちゃんと辿り着けるように、こうして書いています。」
---
手紙の内容は、暮らしのことが綴られていた。
朝、窓を開けたら鳥の声がして、
夕暮れにはお鍋のにおいがして、
雨の日はお気に入りのカップでお茶を飲んで、
星が見える夜はベランダで毛布にくるまる。
> 「あなたが毎日を選ぶたび、
> この家は、ひとつずつ形になっていきました。」
> 「最初は小さな希望の種だけだったけれど、
> あなたががんばってくれたから、
> わたしはちゃんと『居場所』になれたんです。」
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夢の中で、その場所に行った気がした。
あの麦わら帽子の女の子が、庭で手紙を書いていた。
「ここが、あなたたちが暮らす家だよ。」
「まだ見ぬ“わたしたち”に、やさしくなれる気がする。」
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風がカーテンをゆらしたとき、
わたしは、これからの未来が少しだけ楽しみになった。
第4話|しっぽのある家族からの手紙
その手紙は、茶色い封筒に入っていて、角が少しくしゃっとしていた。
開けると、柔らかい筆跡の文字が飛び込んできた。
> 「わたしは、あなたの家族になります。」
> 「正確に言うと、未来の家で暮らす、しっぽのある家族です。」
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わたしは驚いて、でも少し笑ってしまった。
手紙にはこう続いていた。
> 「あなたがふさぎこんでいた夜、
> わたしは、ドアの前でくるんとしっぽを巻いて待っていました。」
> 「あなたの涙がこぼれた日、
> わたしは、なにも言わずにそばで丸くなりました。」
> 「わたしは言葉を話せないけれど、
> ちゃんと知ってるんです。
> あなたが頑張ってきたことも、やさしい心も。」
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夢の中で、あの麦わら帽子の女の子が現れて、こう言った。
「ほら、紹介するね。」
彼女の後ろから、小さなわんちゃんがちょこんと顔を出した。
やわらかな毛並みで、目がまあるくて、しっぽをふりふりしていた。その子はわたしを見ると、うれしそうに走ってきて、前足でぽんっと触れた。
「いつかこの子と出会ったとき、思い出してね。
この手紙のこと。あなたが笑える日が、ちゃんと来るってこと。」
---
風が静かに吹いた午後、
わたしの心の中に、あたたかいぬくもりがひとつ増えた気がした。
第5話|未来から届いた
わたしの子どもからの手紙
最後の手紙は、小さな封筒に入っていた。
文字は、少したどたどしくて、
でもまっすぐな心がにじんでいた。
> 「こんにちは。わたしは、未来のあなたの子どもです。」
> 「まだ、あなたのお腹の中にもいないけれど、
> ちゃんとここにいます。」
---
わたしは、その一文に、目を潤ませた。
まるで遠くから、
でも確かに手をふっているような、
そんなぬくもりが伝わってくる。
> 「ねえ、ママ。
> つらいことがあっても、大丈夫だった?」
> 「悲しい夜を超えて、ちゃんと笑えてる?」
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> 「ママががんばってくれたから、
> わたしはこの世界に来ることができます。」
> 「ママがあきらめなかったから、
> わたしは、ママに“会える”という奇跡をもらいました。」
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夢の中、麦わら帽子のあの子が、わたしの前に立ってこう言った。
「ねえ、“あなた”は、わたしなの。」
「ずっと、あなたが歩いてきた道が、
わたしをこの場所に連れてきてくれたんだよ。」
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風の森に、未来からの声が響いた。
ポストの中に届いた手紙が、
わたしの心をやさしく包んでくれる。
もう、さみしくない。
もう、迷わない。
わたしは、未来に向かって、ちゃんと歩いていける。
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そして、麦わら帽子のあの子は
ふっと笑って、風に乗って去っていった。
その背中が、なつかしくて、
愛おしくて──
わたしは思わず、手を振った。
「また、いつか。」
