dorifamuの日記

〜番外編ばかりの毎日・感謝の気持ちを忘れないように〜 

私は名義だった

私は名義だった・・法廷という場所

第十四章 法廷という場所 裁判に向けて、弁護士からの質問が矢継ぎ早に始まった。 「この入金は誰の指示ですか」 「その場にあなたはいましたか」 「署名はあなたですね」 一つ答えるたびに、 次の問いが重なる。 感情は不要。 記憶だけを求められる。 曖昧…

私は名義だった・・隔離された時間

第十三章 隔離された時間 拘置所からの手紙は、週に一度。 封筒は薄い。 だが中身は重い。 等級が上がれば、 発信できる回数が増えると聞いた。 彼は、 規律を守る人だった。 外にいる私より、 内側の彼のほうが安定しているように思えた。 手紙には、心配の…

私は名義だった・・測られる声

第十二章 測られる声 昼休みは、30分しかない。 その30分で、 私は自分の立場を説明しなければならない。 狭い休憩室。 制服のまま、携帯を握る。 弁護士と話す時間は、 相談ではない。 審査だ。 弁護士は三人。 神谷弁護士。 相馬弁護士。 高瀬弁護士。 最…

私は名義だった・・崩れはじめた前提

第十一章 崩れはじめた前提 通帳を閉じても、 疑問は閉じなかった。 ――なぜ、私だったのか。 長谷川は慎重な人だった。 証拠を残さない。 自分名義では動かない。 家は母親名義。 子ども名義。 弟の妻名義。 現金はATM。 徹底していた。 それほど用意周到な…

私は名義だった・・法廷へ

第十章 法廷へ 最初に届いたのは、 高宮の代理人弁護士からの通知書だった。 「金銭を返済せよ。 応じない場合は訴訟を提起する」 紀子は、紙をじっと見つめた。 “訴訟”。 その二文字だけが、やけに鮮明だった。 まだ戦いは始まっていない。 だが、何かが動…

私は名義だった・・残された側

第八章 残された側 彼が収監されたあと、生活は静かに元に戻る―― 紀子は、最初そう思っていた。 これまでの慌ただしさが終わり、 日常が少しずつ落ち着いていく。 仕事に行き、家に帰り、 普通の時間が戻ってくるのだと考えていた。 しかし、実際に始まった…

私は名義だった・・収監

第七章 収監 最高裁の結果を知らせる手紙が届いたのは、秋が深まり始めた頃だった。 郵便受けに入っていた封筒は、特別なものには見えなかった。 役所から届く通知や、日常の請求書と同じような質感の封筒だった。 だが、差出人の名前を見た瞬間、胸の奥に小…

私は名義だった・・資金

第六章 資金 口座が作られてからしばらくして、 事業の動きは、それまでよりも目に見える形で進み始めた。 長谷川から届く連絡には、 「今日は東京」 「明日は長野」 「今、横浜で打ち合わせが終わったところです」 といった文章が並ぶようになった。 移動が…

私は名義だった・・口座

第五章 口座 事業の準備が進み始めた頃、 長谷川から「書類関係で少し手続きをしてほしい」と頼まれることが増えていった。 最初は、簡単な確認作業や書類の提出だけだった。 形式を整えたり、必要な項目を記入したりする程度で、特別な判断を求められること…

私は名義だった・・名義

第四章 名義 車の話が出たのは、 長谷川が事業の準備で各地を移動することが増えてきた頃だった。 打ち合わせや現地確認のため、 東京、長野、横浜といった遠方へ行くことが多くなり、 「移動手段をどうするか」という話題が自然に出るようになった。 ある日…

私は名義だった・・事業の話

第三章 事業の話 交際が始まってしばらくした頃から、 長谷川は自分の将来の計画について話すようになった。 それまでの会話は、出張先の話や、改装に関わった施設の話など、断片的なものが多かった。 どこへ行った、どんな建物を見た、今はどこの案件が動い…

私は名義だった・・違和感のない違和感

第二章 違和感のない違和感 交際が始まってからも、紀子と長谷川の関係は急激に変化したわけではなかった。 毎日会うわけでもなく、特別に情熱的なやり取りが続くわけでもない。 ただ、日常の中に静かに存在する関係だった。 連絡の中心はメールだった。 朝…

私は名義人だった・・出会い

第一章 出会い 紀子がそのアプリを入れたのは、何かを変えたかったからではなかった。 生活を立て直す、人生をやり直す、そういう大げさな決意があったわけではない。 ただ、日々が同じ形で積み重なることに、いつしか慣れ過ぎていた。 朝は決まった時間に起…

プロローグ

「私は、名義だった」 信じた相手に、人生ごと利用された。 サブタイトル 恋愛、事業、裁判―― 8年後にすべてが崩れて見えた真実 プロローグ 人は、だれかに騙されるとき、 「騙されている」と気づきながら進むわけではない。 後から振り返ったとき、 「あの…